OCNスポーツ



トップページ野球 > ニューヨーク・ヤンキース、黒田博樹のちょっと「真っ直ぐな話」(1/2)
野球
RSS

[野球コラム]

ニューヨーク・ヤンキース、黒田博樹のちょっと「真っ直ぐな話」(1/2)

文=佐々木浩哉 写真=共同通信社
広島から海を渡って4年。黒田博樹はメジャーの舞台で着々と実績を積み、高い評価を勝ち取ってきた。だが、実力を称賛する声や重ねてきたキャリアと比較すると、注目の度合いは決して高くない。あるいは、その真っ直ぐで生真面目な生き方が、スーパースター・黒田博樹の誕生を阻んできたのかもしれない。

ドジャースに残った一番の理由

目の前に大きなチャンスが転がっていても、人は簡単に手を伸ばすことをしないものだ。少なくとも、黒田博樹の場合はそうだった。

2011年夏。ロサンゼルス・ドジャースで4年目のシーズンを過ごしていた黒田は、ある一つの選択を迫られていた。チームを出るか、それとも残るか。契約によってトレードの拒否権を持つ黒田には、ニューヨーク・ヤンキースやボストン・レッドソックスなど、プレーオフの常連である球団から幾つものラブコールが寄せられていた。

7月後半の時点でチームの敗戦数は勝利数を大きく上回り、プレーオフ進出の可能性は風前の灯。黒田自身も打線の援護に恵まれず、先発としての責任を果たしてもチームの勝利にはなかなか結びつかなかった。自らに記録される勝敗については、言うまでもない。

おまけに、オーナーの醜聞が引き金となったお家騒動の影響でクラブハウスの雰囲気は最悪だ。チームは金も無く、ファンの人気も薄れ、勝利の栄光もほど遠い。広島を離れて以来、長い時間を過ごしてきたロサンゼルスの地に別れを告げる瞬間がいよいよやってきた。次はニューヨークか、ボストンか。それとも、ア・リーグ西地区で快進撃を続けるテキサスか。誰もが、新天地でニュースターの役割を演じる黒田の姿を脳裏に思い浮かべていた。

だが、トレードのデッドラインを超えた8月1日、グッドニュースを待つ各球団のオフィスに、吉報は届かなかった。黒田はトレード拒否権を行使したのだ。

「ここに残る一番の理由は、同じチームメートとプレーすること。そのことがとても大事だと僕は考えた。去年のオフに考え抜いてドジャースで1年プレーしようと決めたので、その気持ちを貫くことにした」

葛藤があったことは間違いない。上位争いをするチームに移籍すれば、全てのメジャーリーガーが目標とするワールドシリーズの舞台に立つことも夢ではない。そのマウンドから見えるであろう景色は、常に高いレベルでの戦いを望む男の心を刺激するに足るものであったはずだ。だが、黒田は夢の舞台へつながるドアノブに手をかけることなく踵を返した。その真っ直ぐすぎる視線を、共に戦ってきたチームメートのもとへ向けて。

明けて8月2日、黒田はサンディエゴのペトコ・パークで鬼気迫る快投を見せる。鋭いツーシームでパドレス打撃陣の懐をえぐり、スライダーは強烈な変化で次々とバットから空振りを奪った。7回を投げ、4安打無失点。打線の援護は1点しかなかったが、この日の黒田にはそれで十分だった。1ヵ月ぶりの7勝目を手にした黒田は、ダグアウトでチームメートと共にゆっくりと笑みを讃えた。



OCNスポーツに掲載の写真、イラストレーションおよび記事の無断転載を禁じます。